昨年度、終わらせることができなかった企画ですね。しかも箱根駅伝史上に残る名シーンがまだでした。
第75回箱根駅伝1999を振り返っていきます。
今回は、9区になります。
トップを走るも流れに乗り切れない駒大は4年北田選手に初優勝の襷を託します。いつの間にか1分以内まで差を詰めた順大は、将来のエース候補2年順大高橋選手へ。他、シード権争いが例年以上に激しくなってきました。
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北田初男(駒大4年)①
高橋謙介(順大2年)②0:58
大川智裕(神大4年)③4:16
國武良真(中大4年)④4:38
折井正幸(東海3年)⑤4:42
岡村篤志(東洋2年)⑩14:54[6]10:33
森政辰巳(山学4年)⑥12:02[7]11:00
徳原淳治(大東3年)⑦13:48[8]11:56
船木吉如(拓大4年)⑫16:33[9]12:05
池田 大(日体4年)⑨14:28[10]12:26
岡本佑也(日大4年)⑧14:09[11]14:09
渡辺利彦(中学3年)⑭23:59[12]15:31
平下 修(早大3年)⑪16:03[13]16:03
大村 一(法大2年)⑬19:48[14]16:13
喜多健一(帝京2年)⑮24:12[15]16:30
復路のエース区間と言われる9区。単独走の場面が増え、また気象条件も気温も非常に高い、ビル風も舞うなどタフな場面になっています。トップ駒大北田選手など4年生が7名もいます。
その中にあって、2位スタート順大は28分44秒51のスピードを持つ高橋選手を起用、これがまた大きなドラマを生みました。
区間記録:73回浜野(順大)22分41秒
慎重な入りも苦しそうな駒大北田選手、2位順大高橋選手が猛追!
駒大が史上初8区戸塚中継所をトップ通過を果たしました。戸塚中継所トップ通過した大学の有料確率は81%。初優勝を狙う駒大にはありがたいデータ…ですが、意外と5回に1回は逆転があるんだなとも感じる。まして、追ってくるのが当時から「逆転の順大」と言われている順大だった。
トップ駒大北田選手は箱根3度目の4年生。前回は2年連続の8区も、1週間前に胃潰瘍になり区間二けたに。一転、今年は「4年生は藤田と佐藤だけじゃない」と奮起。出雲・全日本は区間賞で優勝の立役者となり、駒大として盤石の布陣だった。
最初の1㎞は2分49秒。最初は下っているので決して早いペースではない。「ゆっくり入りすぎているのでは?」というのが碓井さん。実際中継所57秒差が早くも47秒差となってきた。ついに肉眼で順大の姿が確認できた。
3㎞通過は北田選手は9分00秒。既に順大との差は34秒差。3㎞で21秒詰めた計算だ。確かに10000m持ちタイム上は高橋選手が上なので、詰まるのは想定内だが、北田選手のさえない表情が気になった。
その後もやや順大高橋選手の方が速いペースで推移。7㎞で17秒差。権太坂7.8㎞で16秒差だった。高橋選手はまだ涼しい表情、北田選手は発汗量が多く表情が歪み始めていた。明らかに順大に流れがある状態だった。
神大大川・山梨森政選手らも意地の追走、区間2位争い
3位争いは、戸塚中継所では神大・中大・東海が競っていたが、優勝候補の一角だった神大が抜け出した。4年大川選手がここまで3番目のタイムの走り、駒大との差も僅かに詰めてきた。中大4年國武選手も追走したが、東海折井選手はここには付けず、すでに1分もの差がついていた。
そこから5分以上後方、6位を走る山梨学院大4年森政選手が非常に良い入り。ここまで2番目のタイムで入っている。2大会前4区でトップを譲った苦い思い出もありますが、ここまでは持ち前のスピードを出していると言える。
とはいえ、順大高橋選手はそれよりも30秒近く早い入り。やや向かい風が吹いている中、区間記録からもそれほど遅れていないタイム。いかに高橋選手が突っ込んで入っているかが分かる。
日体池田選手が9位キープ、東洋岡村選手を追いかけて突き放す
この後ろからは復路一斉スタートの影響もあり、見た目と総合が分からない中での争いだが、シード権争いが混とんとしてきている。7番目を走る総合10位東洋岡村選手が14番目のスローな入り。
10番目を走る総合9位日体池田選手がそのペースを上回り、中継所の26秒差が1分05秒差に広がった。池田選手は視界に、大東徳原・拓大船木選手の並走が見えているのもラッキーなところ。安全圏に逃げ込みたい。
東洋大としてはここまで追い上げた流れを切らせたくないがどうなるか。実質のタイムだと日体大の前に、7位大東大8位日大もすぐそばにいる計算。このままだとこの2校も巻き込みそうで、東洋大も粘ればまだ順位アップのチャンスだ。
後方では、総合11位の早大平下選手が6番目のタイムで好走。中学渡辺選手を捉え12番目に浮上。僅かに総合9位日体大と差を詰める。その後ろは帝京喜多選手が14番目に浮上。なお喜多監督の甥っ子だそう。法大大村選手が最後方に後退。非常にゆったりした入り、トップ見た目との差17分28秒で通過していく。
区間記録:73回浜野(順大)43分08秒
10.3㎞地点、順大高橋選手が駒大北田選手に並ぶ!
権太坂の下りで一気にレースが動いていく。北田選手がペースアップしているように見えたが、実際は高橋選手がさらに早いペースで下っていた。権太坂定点から1㎞走った8.8㎞地点で7秒差に。そこから僅かの9.5㎞で4秒差となった。澤木監督は「9区高橋選手で前が見えていたら面白いんだけどな」と話していたがこれは本当に凄い事になって来た。
解説者は、北田選手は一旦追いつかて仕切り直したほうが良いのでは、とのコメントだが、そう言っている間にも差が詰まってくる。10㎞通過は北田選手は30分28秒なので、高橋選手は推測29分33秒くらいだろうか。
そして10.3㎞地点、ついに高橋選手が北田選手の真後ろにぴったりつく。わずか10㎞で57秒が埋まったと言えそう。そのまま暫く後ろに付こうとした高橋選手だが、10.5㎞地点北田選手がペースを落としてトップを譲る形で順大が4区以来トップに。ゴールまで33㎞残して順大・駒大の並走となった。
高橋選手はそのまま涼しい顔で先頭を引っ張る。尊敬する先輩三代選手が区間記録を出した2区の裏の区間を疾走。順大に進学したのも、三代選手に直接連絡を取ってということでかなりの想い入れだ。
来年度エースになるために区間賞がほしいとのことですが、このままもっと大きなものを手に入れるかもしれない。後ろを振り返って駒大北田選手の表情を確認す仕草もあったがどう思ったか。
北田選手は苦しい表情ながら、懸命に食らいつく。1㎞3分を切るペースで推移していくがこのあたりはさすがロード巧者。簡単には譲らない姿勢を見せる。
高橋選手が前のまま、横浜駅前へ。両者とも役員から水を受けるが、髙橋選手が口をつけるのに対して、北田選手は脚にかけた。この行為が、一つまた勝負を分ける要素になるのだが…
早大が総合10位浮上、平下選手が追い上げにかかる
トップ争いに注目が集まる中、動きがあったのがシード権争い。東洋岡村選手がペースを上げられず、後ろ東洋岡村・拓大船木選手の並走2選手に迫られ、その後ろ日体池田選手も乗り切れず、その2選手を追いかけきれないでいた。
その後ろの後ろだった。早大平下選手が3分05秒程の小気味良いピッチを刻み続け、総合10位に浮上。日体大と東洋大の間に割って入った。6区のブレーキで一気にシード圏外、そして見た目最下位にもなってしまった。復路は全員一般入試組という中、ここまであげたのは伝統校の意地だろうか。日体大との1分11秒差を追い上げにかかる。
順大高橋選手がトップに!一気に北田選手が見えなくなる
箱根駅伝史上に残る名場面がやってきた。16.6㎞地点だった。順大高橋選手がペースを上げると、一気に北田選手が離れていった。高橋選手は、一度振り返り、差を確認するとあとは前方を向いて、また涼しい顔で走り続ける。
本人は残り5㎞でスパートをかける予定だったそうだが、想いの他うまく決まったのでそのまま走ったとか。本命にあがっていなかった順大が10年ぶり9度目の優勝を目指す。そういえば、その前の優勝も、9区で山田選手が日体大を逆転していた。やはり復路の順大は強烈だ。
北田選手は苦しい。上体を揺らして懸命に追うが、16.9㎞地点で移動中継車が割って入って、あっという間に姿が見えなくなった。後の述懐によると、脚の肉刺がつぶれたのと、給水で脚に水をかけたことにより脚が冷えてしまい、動かなくなったとか…。怖いところに勝負のあやがある。
順大高橋選手は終盤(18-19㎞)でも3分00秒と、一番苦しいところでもペースをキープ。20㎞59分23秒通過、ついに区間記録よりも早いペースになり始めた。
北田選手は3分18秒(19-20km)までペースダウン。役員車から大八木コーチが激しい激を飛ばすがペースを上げられない。生麦駅で51秒差。余力の差からすると、残り3㎞でかなりまた開きそうな様相だ。
見た目7番争い・大東徳原、拓大船木選手が定点間4番争い
上位はそのまま、区間2位争いは3位を走る神大大川選手、6位を走る山学森政選手の争い。森政選手がやや有利。中大國武選手はちょっとペースが遅れ始め、単独4位。神大が3位に浮上。東海折井選手は苦しいままだ。
その後ろの競り合いがペースアップ。大東徳原・拓大船木選手が定点間4番手のペースで通過。大東大はシード権争いを大きく引き離し、拓大は一時は遠のいたシード権がかすかに見える総合11位に。見た目でも東洋岡村選手を交わした。
岡村選手は付けず見た目9番、総合12位に後退した。後ろ日体池田選手は追いつくチャンスだったが、彼もやや失速気味で迫って来ない。その後ろ日大岡本、早大平下選手がしっかりペースをキープ。日大もシード権内キープ、早大はシード権まで31秒差。ここにきて一気に詰まってきた。予断を許さない展開になってきた。
13番目位以下は繰り上げの危機が迫っている。帝京喜多選手が中学渡辺選手を交わしているが19分前後。1分猶予があるが、順大高橋選手の勢いからするとまだ分からない差。ともに最後まで襷を繋いだことがないチームだが果たして。
法大大村選手が厳しくなってきていて、この地点で19分48秒差。序盤のスロースタートからペースを上げつつあるが、12秒の猶予。かなりのペースアップがないと難しいと言わざるを得ない差となった。
区間記録:73回浜野(順大)69分30秒
向かい風の中、順大高橋選手が区間新!後続を突き放しトップ中継!
22㎞地点を順大高橋選手は66分11秒を通過。ここにきて初めて表情が歪んできたが、軽快なピッチはさほど乱れていない。区間記録はほぼ間違いない状況だった。
そしてトップで復路鶴見中継所へ。最終的な区間タイムは69分17秒!2大会前の順大の先輩・浜野選手の記録を13秒更新!なお、2大会前は強烈な追い風の中の記録、今回の高橋選手は向かい風の中の記録。価値が違う。ラスト3㎞はなんと8分50秒、最後にまた大きく後続を突き放した。
また事前に優勝争いに挙がっていなかったという点でもまた強烈。前年11月の全日本大学駅伝では総合8位。あの三代選手でさえアンカーで区間4位だったのだから優勝候補まで上がらない。澤木監督でさえ「YKKの一角を崩す」のが目標だった。それが、最終中継所でトップ中継へ。この年は波乱の回だった。
駒大北田選手は苦しい表情で中継所へ。走行中のアクシデントもあり、終盤どうあがいてもペースアップできず。最後の3㎞は定点間9番目。トップ順大との差は1分33秒まで広がってしまった。残り23㎞に託すしかなかった。
その他のYKK、神大大川・山学森政選手が意地の区間2位
そこから3分半程差が開いてやってきたのは、神大大川選手。終盤になり4位中大國武選手を大きく突き放して、完全に単独3位に。往路2区5区ブレーキがありながらよくぞここまで追い上げたと言える。大川選手自身も71分10秒のタイムで区間2位だった。
単独4位中大國武、単独5位東海折井選手を挟んで、6位に山学森政選手。向かい風の中中盤までかなりのスピードを見せた。終盤は苦しくなったが、彼も71分10秒で区間2位タイ。ここも完全単独走でよく走った形だ。このあたり、復路の終盤ではさすがに優勝候補と言われたチームが選手層の差を見せた。もっとも区間トップはこれより1分53秒も早いのだが…。
大東徳原選手が定点間2番!早大平下選手力走で総合9位浮上!
その後ろから注目が高くなってきたシード権争いだ。7番目でやってきたのは大東徳原選手。拓大らとの並走にけりを付け、ラスト定点は2番目のタイムだった。大東はエース萩原選手が故障で欠き、シード権が危ぶまれていた。ただ、この地点で10位チームとは2分差の総合7位へ。10区をしっかりまとめればシード権獲得できる位置だ。
拓大は上位争いに割って入る前評判、それが4区で13位に転落するアクシデント。それでも7区区間賞で一気に前に出ると、9区船木選手が8番目で襷リレー。一時厳しくなったシード権を狙える位置に浮上してきた。
ほどなくして東洋岡村選手。全体的には苦しい走りだったものの、9番目に落ちてからはさほど前との差を離されずに済んだ。逆転シード権へ望みをつないだか。10番目日体池田選手がラスト定点間は14番と苦しみ、意外と離れてしまったがどうか。11番目日大岡本選手が結構近づき、どうやら総合8位はキープ。区間下位が連続していたがここで踏ん張ったか。
その後ろ12番目早大平下選手が問題だった。ずっと区間6位付近をキープする走り、ラスト定点間もしっかりまとめてきた。集計結果、中継所直前で日体大を逆転して総合9位に浮上!臙脂が意地を見せる。
とはいえ10位日体大とは5秒差、11位拓大とは42秒差、12位東洋とは1分02秒差…こちらは完全にアンカー決戦にもつれ込む形だ。復路一斉スタートの関係で、非常に現状確認が難しい中、最後まで目が離せない展開となった。
出場2回目の帝京大10人で襷リレー、中学大・法大が繰り上げに…
その後ろだ。早大が通過した時にはトップとの差は18分08秒。帝京大・中学大・法政大の3校がまだ通過していない状況だった。
途中で15番目を走る法大大村選手が走る場面が映ったが、口は開きっぱなしで時折上空を見上げ、胸を拳でたたくシーンもあり、本当に精いっぱいの走り、そして時計を再三再四確認する様子。ある程度分かったうえでの走りだった。
さて、残り1分を切ったところ、中継所最後の直線に飛び込んできたのは真っ赤のユニフォームの帝京大だった。初出場時の前回は8区戸塚中継所で繰り上げスタートだったが、2度目の出場で最後の鶴見中継所に間に合った。
予選2位通過でシード権を狙っていたところ、思うようなレースではなかった。しかし、15番目の位置から、喜多監督の甥っ子が区間10位の好走で繰り上げ回避。またアンカー芳養選手は前回9区。タスキを受ける事も渡すこともなかったランナーだ。トップ通過から19分22秒差、万感の思いで襷を受け取った。
そのあと、中学大・法大の10区のランナーが繰り上げ用の襷を受けて中継ラインへ。3度目の出場の中学大の9区渡辺選手がやってきたが、間に合わない。50m届かず繰り上げ。終盤に抜かれた帝京大についていければ良かったが、ラスト3㎞は最下位のタイム。精魂尽き果てて中継ラインを超えた。
最後尾、法大大村選手は繰り上げスタートの直前に、ラストの側道に入ってきた。繰り上げの光景は視界にしっかりと入っていた。その瞬間、目を見開いて信じられないという表情を浮かべ、その現実に絶望しながらもそれでもラストスパートかけ続ける、繰り上げの悲劇のシーンとしてその後何度も使われるシーンに。
定点間ではラスト3㎞は6番目、スパートはかけていたものの、残念ながらトップチームの勢いには及ばなかった。悔し泣きに暮れる大村選手、非常に印象に残るシーンなのですが、その2年後さらに箱根駅伝屈指の名場面で主役になるのは、また別のお話…
駒大初優勝に向けて堅実に推移…と思いきや波にのみ切れず。よもや優勝候補に挙がっていなかった順大に、復路終盤の9区であっという間にトップを奪いされられるとは…。
そしてシード権争いは9位から12位まで一分強、しかも復路一斉スタートの影響でそれぞれは別の位置にいる、とてもシビアな状況で、9区にならび最長区間となった10区に勝負はうつっていく。